パリの街にもようやく春の日差しが訪れ始めた頃です。
再びあの屋根裏部屋に戻ってきた、ロドルフォとマルチェルロは以前のように、ショナールやコリーネと共に貧しいけれど楽しい生活を送っていました。
けれども最愛の女性と別れてしまった二人の心はいつもそぞろで、熱心に仕事に打ち込んでいるふりをしながらも、思い出の品を眺めたりして思いにふけることがありました。
「そういえば、この前ムゼッタをみたぞ。二頭立ての立派な馬車で制服を着たお供までいた。俺は『やあムゼッタ、心はどう?痛まない?』と聞いたら『ええ、おかげさまで鼓動していないか、それを感じないの、このビロードのおかげでね』だとさ」
「そりゃ良かった。鼓動していないなんてなによりだ」マルチェルロはおどけたように言いました。
(こいつ、気のない振りをして。苦しんでるくせに)ロドルフォは思いました。
「そういえば、俺もミミをみたぞ。女王様のように着飾って馬車に乗っているんだ」とマルチェルロが言いました。
「そりゃ良かった。万歳だ」ロドルフォもまた、おどけたように言いました。
(こいつめ、恋い焦がれているくせに)マルチェルロは思いました。
「さあ、仕事をするぞ」二人は口々に言いましたが、結局、手に着きません。
ドアが開き、買い出しに出かけていたショナールとコリーネが戻ってきました。ロールパンがたった4つですが、テーブルの上に並びました。
4人はふざけてお芝居を始めます。
「さあ、子爵、シャンパンをどうぞ」と水の入ったびんを傾けます。
「さあ、今夜は舞踏会だ」みんな立ち上がり、それぞれダンスをし始めました。そのうちエスカレートして、コリーネとショナールは火ばさみを持って決闘のまねごとを始めました。
ロドルフォたちも二人をあおって楽しんでいます。
急にドアが開き、あわてた様子のムゼッタが入ってきました。
「ムゼッタ!どうしたんだい!」マルチェルロは驚いて言いました。
「ミミが・・ミミが来ているんだけど。具合が悪くて、階段の途中で耐えられなくなってしまったの」
あわててロドルフォは階段を下りミミのそばへ駆け寄りました。ゆっくりとミミを抱きかかえると部屋の中へ連れ入れ、ベッドに寝かせました。
「ロドルフォ」弱々しくミミはつぶやきました。
「もうしゃべらなくていいよ」
「私はあなたと一緒にいていいの?」
「ああ、僕たちはいつまでも、一緒にいるんだ」ロドルフォは言いました。
「ミミは子爵のところを逃げ出してきたの。それを人づてに聞いてね。探して彼女が体を引きずるように歩いていたのをやっとみつけたの。そして私にこういうのよ『私はもうすぐ死んでしまうの。あの人のところで死にたい。あの人待っているわ・・・』って。」ムゼッタは仲間たちに言いました。
「なんだか気分がいいわ」ミミは言いました。
「部屋を見せてね。ああ、ここはなんて素敵なんでしょう。生き返るようだわ。」
ムゼッタたちは、ミミのために何か用意しようと思いましたが、ここにはなにもありません。飲ませてあげるものすらありませんでした。情けなくてたまらない気持ちに皆なっていました。
「手がとても冷たいわ。マフがあればいいんだけど。この手はもう暖まらないのね」ミミがつぶやきました。
「僕が暖めるよ。疲れるからもうしゃべらないで」ロドルフォは心配そうに言いました。
周りを見回したミミは、みんなの顔を懐かしそうに眺め、挨拶をしました。そして
「ムゼッタは本当に良い人よ」とマルチェルロに言いました。
「わかってる、わかってるよ」マルチェルロはミミの手を握りながら何度も言いました。
ムゼッタは、マルチェルロに自分の耳飾りを渡し、何か薬を買ってくるように頼みました。そして自分も自分のマフを取りに行きました。
コリーネは、あのクリスマスイブの日、古着屋で見つけたお気に入りの外套を手に取りました。
その外套はとても古い物で、それまで使っていた人の想い出がすべて詰まっていました。お金に替えられる物と言えばこれしかないコリーネは思い立ったように部屋から出ていきました。
なにも売る物のないショナールはせめて二人きりにさせてあげようと、静かに外にでました。
「みんなでていったのね。二人きりになりたかったから寝た振りをしていたの」ミミは言いました。
「あなたに話したいことがたくさんあるわ。たった一つだけど海みたいに大きくて、深くて限りないこと。あなたは私の命のすべてよ」
「ああ、ミミ!愛しいミミ!」ロドルフォは嘆きました。
「私はまだ美しいかしら」
「日の出の様に美しいさ」
「それはたとえが間違っているわ。沈みゆく夕日の様に美しいって・・・」ミミは言いました。
そして、あの日、出会ったときの様に、自分のことを語り始めました。懐かしい気持ちでいっぱいになったロドルフォは想い出のボンネットを取り出しました。
「まあ私のボンネットだわ!
あなたは覚えている?初めて私がここに入ってきたときのこと」
「もちろん覚えているさ」
「明かりが消えて、私は鍵をなくして、そしてあなたは手探りで探し始めた」
「ああ」
「ふふ、今だから言うけど、あなたはすぐにそれを見つけたわね。暗くて私が赤くなっていたのは見えなかった。『なんて冷たい手、私に暖めさせて下さい』といってあなたは私の手を握ったわ」
そこまで言うとミミは激しく咳き込みました。
「もう黙ってミミ!」ロドルフォはあわてて言いました。その声を聞いてショナールも入ってきました。
「大丈夫、なんでもないのよ」ミミは言いました。
マルチェルロ、ムゼッタ、コリーネもそれぞれ戻ってきました。ムゼッタはミミの手にマフをはめてあげます。
「まあ、暖かいわ。これで色が変わることもない。きれいにしてくれるわ。ムゼッタがくれたの?ありがとう。
なぜ泣いてるの?私はとても具合がいいの。手が暖かくて・・・そして眠るわ・・」
「医者はどうだったんだ?」ロドルフォは尋ねました。
「もう来る頃だよ」マルチェルロは答えました。
部屋の片隅でムゼッタは
「マリア様。この不幸な娘に、今死ぬべきではないこの娘にお恵みを与えて下さい。そして元気になれますように。
この私はお許しをいただく資格はございませんが、ミミは天使のような娘なんです」と祈り始めました。
ベッドに近づいたショナールはミミが息をしていないことに気づき、マルチェルロにそっと言いました。
窓辺にいたロドルフォ以外は皆その様子にはっとしました。
振り返ったロドルフォは仲間たちの異様な雰囲気に気がつき
「どうしたんだ。そんなに行ったり来たりして。なぜそんな風に俺をみるんだ!」
「落ち着くんだ」マルチェルロはロドルフォを支えました。
ベッドに走り寄ったロドルフォは
「ミミ!ミミ!ミミ!」と慟哭するのでした。
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