はしゃぐ子供達の声が雑踏の中聞こえてきました。
いつもならたしなめる母親達も、この夜ばかりは、華やかなイルミネーションの中、色とりどりの品が並ぶ露店に目を奪われて、心は浮きだっていました。
あちこちから明るい笑い声が聞こえてきます。
先に向かっていたマルチェルロ、ショナール、コリーネも、また後からやってきたロドルフォとミミもそれぞれ露店をぶらぶらのぞきながら、クリスマスイブの街を楽しんでいました。
コリーネはみかけた古着屋の外套が気になるようでした。ショナールは古道具屋で音のはずれたラッパを手に取りながら、商人をからかっていました。
ミミが「私は、帽子がみてみたいわ」
といったので、ロドルフォとミミは帽子屋へと足を運びました。そこにとてもかわいらしい薔薇色のボンネットがあるのを見つけ、ミミは一目で気に入ったようでした。
ロドルフォはそんなミミをうっとりとした目つきで眺めていましたが、逆にミミが自分ではなく、群衆に目を向けるだけで、(いったい誰をみてるんだ)と思うのでした。
カフェに着いたロドルフォとミミは、仲間達の待っている席に案内されました。
「こちらがミミだよ。縫い物をしている嬢さんで、この人が入って僕たち仲間は完成するんだ。なぜなら僕は詩人でミミは”詩”なんだ・・・」照れくさそうに紹介すると仲間達は口々に祝福しました。
「おもちゃ屋のパルピニョールだよ!」
そんなちょっと調子外れの歌を歌いながら、パルピニョールがたくさんのおもちゃを抱えてやってきました。
「パルピニョールだ!パルピニョールだ!ラッパが欲しい、お馬が欲しい」
「タンバリンが欲しいよ!太鼓も、兵隊も」
子供たちは一目散にパルピニョールの周りに集まってきました。自然と人の輪がカフェモミュスの周りに作られました。
仲間たちは、それぞれ、ショナールの持ってきたお金をあてにしてロブスター、ワイン、七面鳥などを頼み始めました。
マルチェルロが
「ミミ、ロドルフォになんかプレゼントをもらったかい?」と聞くと、ミミは
「ええ、薔薇色のボンネットを。私が欲しいと思っていたものよ。それをこの人はちゃんとわかってしまうのよ」と答えました。
そんな二人を、「そりゃすごい!」と仲間たちはからかって楽しんでいました。
そこへ、山のようにプレゼントを抱えた老紳士を従えて、美しい女性がやってきました。
周りの人々は
「ムゼッタだ。あんな得意げにめかしこんじゃって」
とひそひそ話しています。
「まったくこれじゃあ荷物の運び人じゃないか」荷物を抱えた老紳士、アルチンドロは嘆きながらさっさと行ってしまうムゼッタの後を、よろよろとついていきました。
そんなことなど気にしない風に、ムゼッタと呼ばれた女性はアルチンドロをまるで子犬を呼ぶように声をかけながらオープンカフェの席へ腰掛けました。
そんな様子を見て、マルチェルロは急に不機嫌になりました。
ミミが「あの方をご存じなの?」と聞くと
「ああ、あいつはムゼッタ。名字は誘惑だ。風見なやつで、恋人をコロコロと変えるんだ。そして人の心を食べちまう。俺の心もね・・・」
ムゼッタの方も自分に気づいているはずなのに無視するマルチェルロの態度にイライラします。そして
「なにこの皿は。肉臭いじゃないの!」ガチャーン、とテーブルの上に置かれた皿を派手に割ったのでした。
(なんで無視するのよ!振り向いてよ)
イライラするムゼッタをアルチンドロは必死になだめようとしますがムゼッタの関心は全く他にあって相手にされません。
カフェの周りにいる人々も
「あんな小言の多い老人相手に、大変ね、ムゼッタも」と嘲笑しています。
たまりかねたムゼッタは、席を立ち、マルチェルロを見据えて、大声でしゃべり始めました。
「私が道を歩いてるとね、みんなが振り返るのよ。頭のてっぺんからつま先まで私の美しさに見とれてしまうのよ」
さらに続けます。
「私はそういう視線を浴びると体中が熱くなるの。人々の私の美しさを引き出すような熱い視線を浴びて、私は楽しくて仕方がなくなるの。
そしてあなたもね。私のことを必死に忘れようとしているけど、忘れられなくて苦しんでいるのは知っているのよ!」
そんな様子を見てミミは言いました。
「あの方はまだマルチェルロのことを愛してるのね」
それを聞いたロドルフォは言いました。
「彼女の方からマルチェルロを振ったんだよ。いい生活をするためにね」
「もう、静かにしなさい」アルチンドロはたまらずムゼッタに小言を言い始めます。
「うるさいのよ、私は私のしたいようにするの!うるさくしないでよ!」
ムゼッタはなんとかしてこの老紳士から逃げ出そうと考えました。そして
「あー痛い!」とみんなが振り返るほどの悲鳴をあげ、足を見せました。
そんな様子を見ていたマルチェルロは
(私の青春。まだ終わってはいなかった。もし彼女が僕の心の扉をたたいたら・・・僕の心は開いてしまうに違いない)とまだ自分の恋が終わってないことに気づくのでした。
「もう痛いのよ!なんとかして。新しい靴を買ってきてよ。早く!」
騒ぎ立てるムゼッタに、アルチンドロは周囲の目に耐えきれないように、そそくさと靴を買いに行ってしまいました。
仲間たちはこのまるで仕立て上げられたような芝居に歓声をあげます。
そして、ムゼッタとマルチェルロは見つめ合い激しく抱き合うのでした。
そこへ、ボーイが勘定を持ってきました。その金額をみて、仲間たちは驚きます。調子に乗っていろいろと注文してしまいまいたがとても払える金額ではありませんでした。
「いいわ、私の勘定も合わせて」ムゼッタがボーイに言います。
「私の連れが払うと言ってるわ」
アルチンドロに払わせる魂胆でした。
「そりゃいい!」仲間たちは喜びました。
カフェの前では、軍隊たちが鼓笛隊を引き連れてパレードをしています。それにつられて、まだ足の痛いムゼッタを肩に担ぎ上げてマルチェルロは勝利のパレードをしました。
靴を買ってきた、アルチンドロは席にだれもいないのに気づき、ボーイから渡された勘定をみて、椅子に座り込むのでした。